334

今日も阪神が負けた。9回裏までリードしていたのに、最後の最後に守備にミスが出て追いつかれ、トドメにホームランを打たれた。こういう負け方をすると、本当に頭がおかしくなりそうなくらい腹が立つし、しばらくは何も手につかない。心を落ち着かせるのに、めちゃくちゃ時間がかかるのだ。

ぼくは物心ついたときから阪神タイガースが大好きだ。物心つきたてのとき、阪神は強かった。03年、05年と優勝したのをハッキリと覚えている。阪神は強いものだ、と完全に思い込んでいた。子供だったので、自分の思い通りにならないということもある、というのがよくわかっていなくて、自分の誕生日に33-4が完成されてロッテが日本一を決めたときには衝撃を受けた。というより、現実がなかなか受け入れられなかった。それでも、自分にとって阪神タイガースはかっこよくて強いヒーローのようなものだった。

しかし、時間が経つ(自分が大人になる)につれて、現実の厳しさを思い知らされた。阪神は、決して強くなどなかったのだ。むしろ、弱い。その証拠に、2005年以来もう14年も優勝していない。ここぞ、という勝負のときには決まって負けた。いい思い出ももちろんたくさんあるが、ほろ苦い思い出の方がはるかに多い。


子供のころのヒーロー、金本知憲選手が引退するときに、「野球をやっていて、苦しかったことが8,9割だった」と話していた。この言葉は阪神ファンにも通じるし、何なら人生にも通じるところがあると思う。でも1,2割の喜びがあるからこそ、自分は阪神ファンを辞めることはできないのだ。



このごろ、無観客試合が終わり、人数制限をかけながらではあるが観客が入るようになった。そこで気になったのが、観客のヤジだ。今、ご時世的に、大声を出しての応援は自粛するように求められているのだが、テレビ越しにも観客のヤジが聴こえてくる。

これに関しては結構批判されている。たとえば、今日のようにホームランを打たれてしまったとき、観客から「帰れ!」などといった、「心ない」ヤジが飛んだ。こういったヤジは選手たちも傷つくし、萎縮してしまうからやめろ、という意見をよく見かける。

たしかにこういったヤジは、気分のいいものではないかもしれない。しかし、ホントにこういうヤジは、「心ない」んでしょうか?

実際に球場に行ってみても、たしかに阪神ファンのヤジは厳しい。ただその分、活躍した選手には惜しみない賛辞が送られていたし、そういうヤジを飛ばすような人たちは阪神のことが本当に好きなのだ。好きだからこそ、活躍したときには喜ぶし、不甲斐ないプレーをしたときには厳しい声が飛ぶのだ。

だから、「心ない」という表現にはすごく違和感があるし、むしろ心はあるんじゃないだろうか、と思う。

まぁたしかに厳しすぎることもあるし言わない方が選手たちは伸び伸びプレーできるのかもしれないけど、もうこれは阪神という人気球団の宿命なのではないだろうか、と思う。こういったヤジは、期待の裏返し、と言うのは安易すぎるかもしれないけど、少なくとも愛情の裏返しではあると思う。好きだからこそ文句のひとつやふたつも言いたくなるのだ。



幼少期からよく親に連れられて甲子園球場に野球を観に行っていた。そこにはたくさんの阪神ファンがいて、中には明らかにヤバそうな人もいた。たとえば1人でブツブツなにか呟きながら試合を観ているおっさんとかである。そういうおっさんを観て、「うわ、こわっ。しゃべりかけられたくないな」とか子供のころは思っていた。


一昨年、突然思い立って1人で神宮球場を訪れた。1人で野球を球場で観るのは初めてだった。試合の序盤の方は、応援歌をみんなに合わせて歌う程度で、ほとんど黙って試合を見ていたのだが、試合が進むにつれて興奮してきてしまい、声を出さずにはいられなくなってしまった。1人で、「頼む!」とか、「今のストライクやろ!」とかブツブツ自然と口に出すようになってしまったのだ。結局、幼少期に絡みたくないと思っていたおっさんになってしまっていたのだ。

家で見ていても、ブツブツ独り言を言っている。「どこ見とんねんクソ審判!」とか「いやそれ捉えろよ!」とか。


阪神を観ている時が1番感情が揺れ動く。勝ったときはめちゃくちゃ嬉しいし、負けた時はめちゃくちゃイライラする。高校生のとき、逆転負けしたときに眼鏡ケースをぶん投げて破壊したり、机を蹴って膝をケガしたり、世界史の資料集をビリビリに破いてゴミ箱に叩き込んだりしたこともある。(さすがにガキすぎる)

試合を観ているとヤジを飛ばしてしまうというおっさんの気持ちがよくわかる。愛があるからこそ、ヤジを飛ばすんだと思う。だから、汚いヤジを飛ばすおっさんがいても、たとえそれが不快なものであったとしたって、そのおっさんを嫌いになることはできない。




阪神ファンは基本的にネガティブ思考だ。ネガティブ発言を繰り返すし、自虐ばかりしている。チャンスを迎えたときも、「〇〇、頼む!」というよりは、「三振しそうゲッツーだけはやめてくれよ」などと思っている。そして、その悪い方の予感が当たることの方がはるかに多い。(体感応援はするけど、お金を賭けろと言われたら他のチームに賭けるのだ。基本的に、「期待しない」というスタイルである。期待を裏切られる方がはるかに多いからだ。現に、毎年毎年シーズンが始まる前には優勝や!とか言いながらも14年間も優勝していない。でも、まっっったく期待しないわけではない。うっっっっすい期待を抱いているからこそ、応援するのだ。たまーーーーにその期待が現実となると、お祭り騒ぎである。これが1,2割の喜びで、これがあるからこそ、かっぱえびせんのように、阪神ファンは辞められないし止まらないのだ。


明日からは勝ちまくってほしいな、いっぱい負けるんやろうけど。

死ぬまでにあと2回は優勝してほしいな。