負け試合

7/28,30に、神宮球場阪神戦を観に行った。どちらも1人で観に行った。大学生になるまでは、1人で野球を観に行くなんて考えられなかったが、1回行ってしまえば1人で行くことも屁でもなくなり、このごろは結構1人で行っている。
1日目は阪神が大勝した。なんと20点も取った。打てばヒット、ホームランという状態で、満塁ホームランも2本出てお祭り騒ぎだった。ご時世的に声を出してはいけないというルールがあったので、ひたすら1人でニヤニヤしながら観ていた。マスクの着用も義務付けられているのでニヤニヤしていても誰にもバレない。
観戦2日目、3連戦の最終日。カード勝ち越しをかけた大事な一戦の先発ピッチャーは、藤浪晋太郎だ。
藤浪は高校時代、大阪桐蔭のエースとして甲子園春夏連覇を達成し、鳴り物入り阪神タイガースに入団した。高卒1年目から3年連続で2ケタ勝利を達成し、ファンは皆、阪神のエースの階段を登っていくと信じていた。ところが、あるところから歯車が狂い始め、勝てなくなる。ストライクが入らず、直球がすっぽ抜けてデッドボールとなってしまうことが多くなり、イップスではないかとまで囁かれた。
ここ数年の藤浪は、マウンド上で不安げな表情を浮かべ、抜け球が出るたびに球場からは悲鳴が上がり、何度もマウンド上でフォームを気にして、バッターと対戦しているというよりは、自分と戦っているようにしか見えなかった。
藤浪は終わった、もう厳しい、とまで言う人もたくさんいた。
高校時代からの活躍、素材の素晴らしさはわかっているだけに、このような状況は、ファンにとっても、もちろん本人にとってももどかしかったに違いない。

2軍で結果をある程度出して臨んだ今シーズン初登板、今までとは少し違った藤浪の姿が見られた。結局逆転満塁ホームランを打たれて降板したのだが、この日の藤浪は自分と戦っているのではなく、しっかりとバッターと対戦しているように見えた。降板後、悔しそうな表情を浮かべながらベンチで声援を送る姿をテレビ越しで見て、今年の藤浪はもしかするとやってくれるかもしれない、という期待を抱いた。

どうしても藤浪のピッチングをこの目で見たくて、チケットを取った。

試合前のブルペンでの投球を見ていると、期待感半分、不安感半分の何とも言えないような、祈るような気持ちになった。

試合が始まった。
1回、簡単にツーアウトを取るも、3番の青木にストレートのファーボールを出してしまった。しかし、4番の村上を154km/hのストレートで空振り三振に切ってとった。この球はあっと声が出そうになるほどいい球だった。この回投じた20球のうちなんと19球がストレートだった。
2回に先制を許すも、3回からはカットボールやフォークも決まるようになり、三振の山を築いた。

これがおれが見たかった藤浪だ!とかなり興奮したし、終始祈るような気持ちで見ていた。

藤浪は踏ん張っていたものの、ヤクルトの先発高橋の出来がかなりよく、打線は1点も取れず援護することができない。

迎えた7回裏、先頭バッターの宮本をショートゴロに打ち取ったかに思われたが、ショート北條がエラーしてしまう。

北條は守備に不安があり、この当たりも飛んだ瞬間嫌な予感がしたのだが、案の定弾いてしまった。
大声禁止なのにも関わらず阪神ファンから怒号が飛んだ。

ワンアウト2塁となった後、再び二遊間にゴロが飛んだ。これを北條がまたも弾いてしまい、内野安打としてしまう。
この打球もたしかに難しい当たりではあったのだが、アウトにしてほしい打球ではあった。阪神ファンのフラストレーションは最高潮に達した。ヤジ、怒号が飛び交った。

2アウト1,3塁とされ、迎えるバッターは坂口。追加点を許せないこの場面では迎えたくない嫌なバッターに回ってきた。藤浪が投じた2球目、坂口が放った打球は藤浪の手首に直撃した。跳ね返ったボールはピッチャーとキャッチャーの間に転々とした。間に合わないな、と諦めたその時、藤浪が必死になってボールに追いつき態勢を崩しながら無理矢理1塁に送球した。結果的にこれが悪送球となり、追加点を許してしかもランナーを進めてしまう結果となった。

状況的に判断すると、決して無理に投げてはいけない場面だ。もうすでに間に合わないタイミングだったし、無理に送球すべきではない、というのが冷静な判断だったと思う。しかし、この無理矢理1塁に投げた、というプレーからは藤浪の勝ちへの執着心というか気迫が感じられた。

今までの自分なら、どうせ間に合わんし投げんなよ!と思っていた気がするが、今日に関してはまったく責める気にはならなかった。

そのあと、センターとショートの間にフラフラと上がったフライを北條が落球してしまい、さらに2点の追加点を取られてしまう。4-0。今日の打線からしたら絶望的なスコアだ。阪神ファンからはめちゃくちゃにヤジが飛んだ。北條帰れ!鳴尾浜行け!引っ込め!

自分も小さい声でブツブツ、何やってんねん…と言ってしまった。さすがにこうもミスが続くとかなりイライラしてくる。

何とか藤浪はこの回を投げ終え、ベンチに戻っていった。球場からはよく頑張った!という拍手が送られた。今までならイライラしてそんな拍手はする気にはならなかったと思うが、今日は素直に拍手することができた。藤浪、ナイスピッチング! 大声が禁止されていなければ、そう叫んでいたであろう心境だった。

4-0と絶望的な点差になってしまったが、8回表、ワンアウト満塁のチャンスを作る。一発出れば同点というところで、結果は最悪のゲッツー。1点も入らない。

8回裏、出てきたのはルーキーの小川。なかなかストライクが入らず、ストライクを取りに行った球を打たれるという典型的なよくないときのピッチング。ここで2点を奪われ、6-0。
ここでも今までなら罵詈雑言を浴びせていただろうが、今日はなぜか平常心で一部始終を見ることができた。ルーキーやし、これをいい経験にしてくれれば。そういう気持ちで見ていた。もう完全におじさんの視点である。

9回も特に見せ場はなく、万事休す。敵チームのヒーローインタビューなんぞ見る義理もないので、すぐに帰宅の途についた。

帰り道、北條のエラーにはかなりイライラしながらも、心のどこかで藤浪のいいピッチングが見れたしまぁよかったか、と思う気持ちがあった。

今まで何試合も負け試合を見てきたが、負け試合の中でもまぁいいもの見れたしいいか、などと思ったことは一度もなかった。負けたらクソ、金返せ!と思わなかった負け試合はなかった。

今日に関しては、金返せ!という気持ちはほとんど湧いてこなかった。北條のエラーに関しても、ムカつくのは期待の裏返しなのだ。

北條は藤浪のドラフト同期で、甲子園の決勝で藤浪と対戦している。甲子園のスターを両獲りしたときの興奮は忘れられない。高校時代から見てきた選手で思い入れがあるからこそ、もっと大きく育って欲しいし、しょうもないミスをすると悔しいし腹が立つ。

今日は散々な1日だっただろうし本人も悔しくないわけがない。観客からも相当にヤジられて批判されていた。(おれもヤジってはないけど批判した) ありきたりだけど、この悔しさをバネにして、なんとか奮起してほしいし、やり返してくれると信じている。

むやみやたらと選手をヤジらず、負け試合でもある程度満足して帰ることができたのは、大人になったということなのかもしれないとも思うのだが、結局ご時世的に大声を禁じられて、静かに観戦しないといけない、という現状があるからなのかもしれないとも思う。

これを確かめるためにも、めちゃくちゃ密になって、皆が思い思いの声援を気兼ねなく選手たちに送れるような状況に早くなればいいな、と思う。
やっぱり満員の観客の興奮や熱狂が味わいたい。5万人の甲子園球場に早く行きたい!